ブレーメンの音楽隊(グリム)

ブレーメンの音楽隊★

 

昔、ある所に1匹のロバがいました。そのロバは長い間、重たい荷物を背中に乗せて運ぶ仕事をしていました。

やがてロバは年をとって、力が弱くなり、思うように仕事ができなくなってしまいました。すると、このロバの飼い主は、「働けないロバには、エサをあげてももったいない。エサをやるのはやめよう。」と言い出したのです。

エサがもらえなくなれば、ロバは生きていくことはできません。ロバはこの家を出ることにしました。そしてブレーメンという町に向かって歩き出しました。ブレーメンの町にある音楽隊に入って、そこで新しく音楽の仕事をしようと思ったからです。

 

ロバがしばらく歩いて行くと、途中の道ばたにイヌが横になっていました。イヌはゼーゼー息を切らしています。
「イヌくん、いったいどうしたんだい?」とロバはたずねました。

するとイヌは、「僕、年を取って、狩りで獲物をつかまえる仕事ができなくなったんだ。そうしたらね、僕の飼い主は、僕を鉄砲で撃とうとしたんだよ。それで急いで逃げてきたところなんだ。」と答えました。

ロバはそれを聞いて、「それなら、ブレーメンの音楽隊にならないかい。僕がギターをひいて、君はタイコを叩くのはどうかな。」と言いました。

イヌは「それはいい考えだ。」と思って、一緒にブレーメンの町へ行くことにしました。

 

2匹が歩いて行くと、今度は道ばたでネコが座りこんでいました。ネコはしょんぼりとした顔をしています。
「ネコさん、いったいどうしたんだい?」とロバはたずねました。
するとネコは、「私、年を取って、ネズミを追いかける仕事ができなくなったの。そうしたらね、私の飼い主は、私を川で溺れさせようとしたのよ。それで急いで逃げてきたところなの。」と答えました。

ロバはそれを聞いて、「それなら、ブレーメンの音楽隊にならないかい。君はきっと夜の歌が得意だろう。」と言いました。

ネコは「それはいい考えだ。」と思って、一緒にブレーメンの町へ行くことにしました。

 

3匹が歩いて行くと、大きな家の前を通りかかりました。家の門の上にはオンドリがとまっていて、ありったけの大きな声で、コケコッコーと鳴き叫んでいました。
「オンドリくん、いったいどうしたんだい?」とロバがたずねました。
するとオンドリは、「みんなにいいお天気だって知らせているんだよ。僕の飼い主は明日、僕をお客さんに出すスープに入れるつもりなんだ。だから僕は、声の出せる今日のうちに、精一杯鳴いているんだよ。」と答えました。
ロバはそれを聞いて、「それなら、ブレーメンの音楽隊にならないかい。君は声がいいから、素晴らしい音楽ができるよ。」と言いました。

オンドリは「それはいい考えだ。」と思って、一緒にブレーメンの町へ行くことにしました。

 

4匹は、夕方大きな森へやってきました。ブレーメンの町はまだ遠いので、今夜はここで休むことにしました。ロバとイヌは大きな木の下に横になりました。ネコとオンドリは木の上にのぼりました。

みんなが眠ろうとした時、木のてっぺんにいたオンドリが、遠くの方に明かりが見えるのを見つけました。オンドリは、「向こうに家があるみたいだ!」とみんなを起こしました。みんなは、「じゃあ、すぐにそこへ行ってみようよ。」と言って、また歩き出しました。

 

4匹は、明かりのついている家の前までやってきました。実はこの家は、ドロボウたちの家でした。

ロバは窓から中を覗いて、「これはすごいよ。テーブルの上は美味しそうなごちそうでいっぱいだ。それをドロボウたちがご機嫌で、のんだり食べたりしているよ。」とみんなに教えました。

4匹は、何とかしてドロボウ達を追いはらって、ごちそうをいただけないかと考えました。そして、いい考えを思いつきました。

 

まず、ロバが窓に前足をかけて、ロバの背中にイヌが飛び乗りました。次に、イヌの上にネコがのぼりました。最後に、オンドリが飛び上がってネコの頭の上に乗りました。
それからみんなで合図に合わせて、「ヒヒーン!ワンワン!ニャーニャー!コケコッコー!」と、ものすごい大きな声で鳴き叫びました。それからいっせいに、窓ガラスをガシャーンと割って、部屋の中へ飛び込みました。

これにはドロボウたちももうびっくりして、「ばけものだ!」と叫ぶと、いちもくさんに森の中に逃げて行ってしまいました。

 

4匹は「よしよし、うまくいったぞ。」と言って、テーブルに残っていたごちそうをお腹いっぱいになるまで食べました。それからそれぞれ、寝心地のいい場所を探しました。ロバは庭のわらの上に、イヌはドアのうしろに、ネコは暖炉の灰のそばに、オンドリは天井の横木の上に決めました。そして、明かりを消すと、みんなすぐにぐっすりと眠ってしまいました。

 

真夜中になって、ドロボウたちはまた集まってきました。ドロボウのお頭は、「静かだな。もう、ばけものはどこかに行ってしまぅたかもしれないぞ。」と思いました。そこで、手下のドロボウの一人に、家の中の様子を見に行くように言いました。


手下のドロボウは、そっと家の中に入りました。家の中は真っ暗でシーンとしていました。

手下はロウソクに火をつけようと思って、暖炉に残った小さな火に、マッチを近づけました。でもそれは、火ではなくて、目を覚ましたネコの目だったのです。ネコは怒って、手下の顔に「フー!」と息を吹きかけると、バリッと思いつきひ爪で引っかきました。
手下はあわててドアから逃げ出そうとしました。ところがそこに寝ていたイヌが、手下の足にガブリとかみつきました。

手下はますますあわてて庭へ飛び出しました。すると今度はロバが、手下をポーンと蹴り飛ばしました。そしてオンドリも目を覚まして、「コケコッコー!」と鳴き叫びました。

 

手下のドロボウは、ヨロヨロになりながらお頭のところへ戻りました。そして、「お頭、あの家にはおそろしい魔女がいます。魔女はいきなりおれにの顔に息を吹きかけて、それから長い爪でひっかきました。逃げようとしたらドアの前に男がいて、おれの足をナイフで突き刺しました。庭には黒いばけものがいて、おれをこん棒でぶんなぐりました。おまけに屋根の上には裁判官がいて、『その悪者を連れて来い』と、どなっていました。おれはもう、怖くて怖くて、必死になって逃げてきました。」と言いました。

その話を聞いたお頭や他のドロボウたちは怖がって、もう二度とこの家には帰ってきませんでした。

 

ロバとイヌとネコとオンドリは、すっかりこの家が気にいったので、ブレーメンの町へは行かずに、ずっとここで楽しくくらしました。

 

おしまい