赤ずきん(グリム)

赤ずきん


昔、ある所に、可愛い小さな女の子がいました。女の子のおばあさんは、特にこの子を可愛がっていました。ある時おばあさんは、女の子のために、きれいな赤い布で頭巾を作ってくれました。女の子はこの赤い頭巾が気に入って、いつもかぶっていたので、皆から「赤ずきんちゃん」と呼ばれるようになりました。


ある日、お母さんが赤ずきんちゃんを呼んで、
赤ずきんちゃん、おばあさんが病気で寝込んでいるの。元気になるように、お母さんが作ったケーキとワインを、おばあさんの家に持っていってあげてちょうだい。道草しないで、まっすぐ行くのよ。おばあさんの家に着いたら、きちんとご挨拶してね。」と言いました。
赤ずきんちゃんは、「わかったわ。いってきます。」と言って、出かけていきました。


おばあさんの家は森の中にあります。赤ずきんちゃんが森に入って行くと、オオカミが出てきて、「赤ずきんちゃん、こんにちは。」と声をかけてきました。

赤ずきんちゃんは、オオカミが怖いことを知らなかったので、「こんにちは、オオカミさん。」ときちんと返事をしました。
オオカミは、「赤ずきんちゃん、どこへ行くの。何を持っているんだい。」と聞きました。
赤ずきんちゃんは、「おばあさんが病気だから、ケーキとワインを持って、お見舞いに行くのよ。」と答えました。

オオカミは心の中で、「美味しそうな女の子だな。この子をだまして、この子もばあさんも、どちらも食べてしまおう。」と考えました。
そこでオオカミは、「赤ずきんちゃん、まわりを見てごらん。きれいなお花がたくさん咲いているよ。」と言いました。

赤ずきんちゃんが森の中を見渡すと、本当にきれいな花がたくさん咲いていました。赤ずきんちゃんは、「こんなきれいなお花を持っていってあげたら、おばあさんはきつと喜ぶわ。」と思って、道の周りの花を摘み始めました。そうしているうちに、「あっちのお花の方がきれいかな」「向こうにはもっとたくさん咲いてるわ」と、いつのまにかどんどん道から離れていってしまいました。


オオカミはその間に、おばあさんの家へ急いでいきました。そして、トントンとドアをたたきました。
おばあさんは部屋の中から、「どなた。」と聞きました。
オオカミは赤ずきんちゃんの振りをして、「私、赤ずきんちゃんよ。ケーキとワインを持ってきたの。」と言いました。
おばあちゃんは「まあ、赤ずきんちゃん、よく来てくれたね。鍵は開いているから、お入りなさい。」と言いました。
オオカミはは、ドアをバンと開けると、いきなりおばあさんに飛びかかって、大きな口でパクリと飲み込んでしまいました。

それから、おばあさんの服を着て、おばあさんのナイトキャップをかぶって、おばあさんのベッドにもぐりこみました。

 

赤ずきんちゃんは、きれいなお花を手に持ちきれないくらいいっぱい摘んで、またおばあさんの家への道に戻って歩き出しました。

赤ずきんちゃんがおばあさんの家へ来てみると、ドアが開いたままになっていたので、赤ずきんちゃんは、「変だな。」と思いました。「こんにちは。」と挨拶をしても、返事はありまん。

おばあさんのベッドに行くと、おばあさんはナイトキャップをかぶって寝ていました。でも、なんだかいつもと様子が違います。

 

赤ずきんちゃんはおばあさんに話しかけました。
「ねぇ、おばあさん。どうしてそんなにお耳が大きいの。」
「それはね、おまえの声をよく聞くためだよ。」
「ねぇ、おばあさん。どうしてそんなにお目々がが大きいの。」
「それはね、おまえの顔をよく見るためだよ。」
「ねぇ、おばあさん。どうしてそんなにお口が大きいの。」
「それはね、お前を食べるためだよ!」
そういうとオオカミは、いきなり赤ずきんちゃんに飛びかかって、大きな口でパクリと飲み込んでてしまいました。オオカミはお腹がいっぱいになったので、そのままベッドの上で、ぐうぐういびきをかきながら眠ってしまいました。

 

ちょうどそこへ狩人が通りかかりました。狩人は、
「おばあさんが、こんな大きないびきをかいているなんて、おかしいぞ。」と思いました。狩人が部屋の中へ入ってみると、ベッドの上でオオカミが眠っていました。
狩人はすぐにオオカミを鉄砲で撃とうとしましたが、「もしかしたらオオカミのやつ、おばあさんをそのまま飲み込んでいるかもしれないぞ」と思いました。

そこで狩人は、撃つのはやめて、ハサミを出すと、眠っているオオカミのお腹をジョキジョキ切り始めました。
するとお腹の中から、赤いずきんちゃんが元気に飛び出してきました。赤ずきんちゃんは、「あぁ、怖かった。オオカミのお腹の中は真っ暗だったのよ。」と言いました。それから、おばあさんも無事にオオカミのお腹の中から出てきました。

 

赤ずきんちゃんは、大きな石を運んできて、オオカミはのお腹の中にいっぱい詰め込みました。目を覚ましたオオカミは逃げ出そうとしましたが、お腹の石が重すぎて、そのまま床にバッタリ倒れて死んでしまいました。


三人は大喜びしました。

狩人は、オオカミはの毛皮を持って帰りました。

おばあさんは、赤ずきんちゃんのもってきたケーキを食べて、ワインを飲むと、すっかり元気になりました。

それから赤ずきんちゃんは、「お母さんの言った通り、もう二度と、道草なんてしないわ。」と思いました。

 

おしまい

星の銀貨(グリム)

星の銀貨★

 

昔、ある所に一人の女の子がいました。女の子はお父さんとお母さんが亡くなって、お金がなく、住む家や寝る所もなくなってしまいました。そして、とうとう持っているものは、着ている服と帽子と、親切な人からもらったパン一つだけになってしまいました。でも、女の子は優しくてきれいな心を持ち続けていました。

 

一人ぼっちの女の子は、野原を歩いて行きました。すると、お腹を空かせた男の人がいて、「何か食べるものをおくれ。」と言いました。女の子は、持っていたパンを全部、その男の人にあげました。

 

また歩いて行くと、今度は子供がやってきて、
「頭が寒いよう。何かかぶるものちょうだい。」と言いました。女の子は、かぶっていた帽子をぬいで、その子にあげました。


それからまた歩いて行くと、また別の子供がやってきて、「上着がなくて寒いよう。何か着るものをちょうだい。」と言いました。女の子は、自分の上着をぬいで、その子に着せてあげました。

 

それからまた歩いて行くと、また別の子供がやってきて、「スカートをちょうだい。」と言いました。女の子は、スカートもぬいでその子にあげました。


そのうち、女の子は森へやってきました。あたりはもう暗くなっていました。そこへまた別の子供がやってきて、今度は「肌着をちょうだい。」と言いました。女の子は、「もう真っ暗で誰にも見られないわ。」と思って、とうとう肌着までぬいで、その子にあげてしまいました。


もう女の子は何も持っていないし、何も着ていませんでした。すると突然、空からお星さまがたくさん降ってきました。そのお星さまは、地面に落ちると、キラキラ光る銀色のお金(銀貨)になりました。そしていつの間にか、女の子は新しいきれいな肌着を着ていました。
女の子は、銀貨を全部ひろいあつめて、それで一生お金に困らないで暮らすことができました。

 

おしまい

 

ラプンツェル(グリム)

ラプンツェル

 

昔、ある所に結婚している男の人と女の人がいました。二人は子供が欲しかったので、何年もお祈りをしていました。そして、やっと女の人のお腹に赤ちゃんが授かりました。

 

この二人の家の裏には、魔女が住んでいました。魔女は素敵な庭を持っていました。そこには、色々なきれいな花や、珍しい野菜やハーブが植えられていました。でも、その庭は魔女以外の人は入れないように、高い塀で囲まれていました。

 

ある時、お腹が大きくなってきた女の人は、自分の家の窓から、魔女の庭を眺めていました。

すると、きれいな緑色の葉をした野菜が目に入りました。それはラプンツェルという野菜でした。

女の人は、その美味しそうなラプンツェルが食べたくてたまらなくなりました。でも、それは魔女のものなので、食べることはできません。そう思うと、女の人はだんだん痩せて、顔色も悪くなっていきました。

 

男の人は元気のない女の人を心配して、いったいどうしたのかと尋ねるました。すると女の人は、「ああ、あのラプンツェルを食べられないのなら、私は死んでしまうわ。」と答えました。それを聞いた男の人は、女の人を愛していたので、何とかしてラプンツェルを食べさせてあげたいと思いました。

 

男の人は暗くなってから、高い塀を乗り越えて、魔女の庭にこつそり入りました。そして急いでラプンツェルを取って、家に持ち帰りました。

女の人はすぐにラプンツェルをサラダにして、むしゃむしゃとあっというまに食べてしまいました。そのラプンツェルがあまりに美味しかったので、女の人は前よりももっともっと、ラプンツェルが食べたくてたまらなくなってしまいました。

 

男の人は、女の人のために、もう一度魔女の庭にしのびこみました。ところが塀を降りると、目の前にはおそろしい魔女が立っていたのです!魔女はラプンツェルが盗まれたことに気がづいて、とても怒っていました。

男の人は怖がりながら、「どうか許してください。」と魔女に頼みました。そして、女の人のお腹に赤ちゃんがいて、ラプンツェルを食べなければ死んでしまいそうなんだ、と話しました。

すると魔女は、「それなら、ラプンツェルは好きなだけあげよう。でもその代わりに、赤ちゃんが生まれたらその子を私によこすんだよ。私が自分の子供のようにして、大事に育ててあげるからね。」と言いました。

男の人は本当は嫌でしたが、魔女がおそろしかったので、とうとう魔女の言う通りにすると約束してしまいました。

 

それからしばらくして、女の子の赤ちゃんが生まれました。するとすぐに魔女がやってきて、「この子はラプンツェルという名前にしよう。約束通り私がもらっていくよ。」と言って、ラプンツェルを連れていってしまいました。


ラプンツェルは大きくなると、この世で一番美しい娘になりました。ラプンツェルは金色の美しい髪をしていました。その髪はとても長くて、10mもありました。

魔女はラプンツェルが12歳になると、森の中にある高い塔の上に閉じ込めてしまいました。その塔は1番上に小さな窓が1つあるだけで、階段も入り口もありませんでした。
魔女は塔の下へやってくると、「ラプンツェルラプンツェル、髪をたらしておくれ。」と叫びました。その声が聞こえると、ラプンツェルは金色の長くて美しい髪を、窓から塔の下に向かってたらしました。魔女はその髪を伝って、塔の上へ登っていきました。

 

それから何年かたったある日、1人の王子様が馬で森へやってきて、塔のそばを通りかかりました。王子様はその時、優しい歌声を耳にしました。それは塔の上でラプンツェルが歌っている声でした。

王子様はその歌声にすっかり聴き惚れて、歌っている人に会ってみたいと思いました。とかろが、塔を探しても入り口が見つかりません。仕方なく、その日は諦めてお城に帰りました。

 

それから王子様は毎日森へやってきて、塔の側の木の後ろで、ラプンツェルの歌声を聴いていました。

そんなある日、魔女が塔の下にやってきました。魔女は王子様には気がつかないで、「ラプンツェルラプンツェル、髪をたらしておくれ」と叫びました。すると塔の上から、金色の長くて美しい髪が降りてきました。魔女はその髪を伝って、塔の上へ上っていきました。

 

その様子を見ていた王子様は、自分も同じようにすれば、塔の上に上れるかもしれないと思いました。王子様は次の日、暗くなってから塔の下に行きました。そして、「ラプンツェルラプンツェル、髪を垂らしておくれ」と呼びかけました。

すると、すぐに金色の長くて美しい髪が目の前に降りてきました。王子様はその髪を伝って、塔の上へ上っていきました。

 

ラプンツェルは王子様を見て、とても驚きました。

王子様はラプンツェルに、「あなたの歌声を聴いて、あなたを好きになりました。どうか僕と結婚してください。」と言いました。

ラプンツェルも、若くて優しい王子様を好きになりました。そして、「王子様はきっと、魔女のおばさんよりも、私を幸せにしてくれるだろう。」と思いました。

ラプンツェルは王子様に、「これから塔に来る時には、絹の紐を一束ずつ持ってきてください。」とお願いしました。ラプンツェルは、その絹の紐ではしごを編んで、それが出来上がった時には、塔を降りて王子様とお城に行く約束をしました。それから王子様は毎日、ラプンツェルに会いに塔の上へやってきました。

 

魔女はいつも昼間に塔にやって来くので、夜に来る王子様の事は、ちっとも気がついていませんでした。

でもある時、ラプンツェルは長い髪で魔女を引き上げながら、「ああ、おばさんは重たいわ。王子様は軽々上ってきてくれるのに。」と、思わず口に出してしまいました。

魔女は怒って、「ここまで育ててやった私を騙していたなんて、なんて恩知らずな娘だ!」と叫びました。

そしてラプンツェルの長い髪を掴み、ハサミで根元から切き落としました。それから、ラプンツェルを遠い荒れた野原へ連れて行き、そこに置き去りにしてしまいました。

 

その夜、王子様はいつものようにやってきました。そして、「ラプンツェルラプンツェル、髪をたらしておくれ」と呼びかけました。

魔女はラプンツェルのふりをして、切った長い髪をたらしました。王子様は塔に上って驚きました。目の前にいるのがラプンツェルではなくて、恐ろしい魔女だったからです。

魔女は、「ラプンツェルはもういないよ。お前は二度と、あの娘に会うことはできないよ。」と言いました。

王子はあまりの悲しみに耐えられなくなり、塔の上から飛び降りてしまいました。そしてその時、地面にあったイバラが目に刺さり、王子様の両目は見えなくなってしまったのです。

王子様は泣きながら、森の中をさまよい歩き続けました。

 

何年もして、王子様はラプンツェルのいる荒れた野原にやってきました。そこで王子様は懐かしい歌声を聞いて、そちらの方へと歩いていきました。

ラプンツェルは男の子と女の子の双子を産んで育てていました。歌を歌っていたラプンツェルは、王子様を見つけると、駆けよって王子様の首に抱きつきました。そしてラプンツェルの2粒の涙が王子様の目にふりかかると、不思議な事に王子様の目はまた見えるようになりました。

 

王子様はラプンツェルたちを連れて、自分の国に帰りました。国中のみんなが喜びました。それからずっとずっと幸せにくらしました。

 

おしまい

ホレおばさん(グリム)

ホレおばさん★


昔、ある所にお母さんと二人の娘がくらしていました。二人の娘のうち、お姉さんは働き者の娘でしたが、妹は怠け者の娘でした。でも、お母さんはいつも妹の方ばかり可愛がっていました。それは妹はお母さんの本当の娘だったけれど、お姉さんはは亡くなったお父さんの前の奥さんが産んだ娘 だったからです。お母さんはお姉さんにはいつも冷たくて、おまけに家の仕事を全部やらせていました。

 

 お姉さんは毎日、井戸の側でたくさんの糸紡ぎの仕事をするように、お母さんから言いつけられていました。糸紡ぎの仕事とは、ふわふわしたわた(麻・羊毛など)から"つむ"という道具を使って、細長い糸を作っていく仕事です。お姉さんは指から血が出るほど、一生懸命糸を紡いでいました。

 

ある時、大事なつむに血がついてしまったので、お姉さんは急いでつむを井戸の水で洗おうとしました。ところがその時、うっかり手が滑って、つむを井戸の水の中に落としてしまいました。つむは水の底に沈んで、見えなくなってしまいました。

お姉さんは泣きながら家に帰って、お母さんに訳を話しました。お母さんはとても怒って、「お前が落としたんだから、自分でひろつておいで!」と言いました。

家から追い出されたお姉さんは、仕方なくか井戸に戻りました。でも、どうしたらいいのか分かりません。そこでお姉さんは思い切って、井戸の水の中へ飛びこみました。

 

 気がつくとお姉さんは、広い野原にいました。そこはお日さまに照らされた明るいところでした。そしてまわりには、色とりどりのきれいな花がたくさん咲いていました。

 

お姉さんはつむを探して歩き出しました。すると途中で、パンを焼くかまどがありました。かまどの中にはたくさんのパンが入っていました。そしてパンたちは、「出してくれ、出してくれ、早くしないと焦げてしまうよ!」と叫んでいました。お姉さんは可哀想に思って、焼きあがったパンを全部外に出してあげました。

 

それからまた歩いていくと、今度は赤いリンゴがたくさん実っている木がありました。そしてリンゴの木は、「ゆすってくれ、ゆすってくれ、リンゴが重くてたまらないよ!」と叫んでいました。お姉さんは可哀想に思って、リンゴの木をゆすっててリンゴの実を全部落としてやりました。


どんどん歩いていくと、小さな家がありました。家の中からは白髪のおばさんがのぞいていました。おばあさんは大きな歯をしていたので、お姉さんは怖くなって逃げ出そうとしました。ところが、おばあさんは、「怖がらなくていいよ。私はホレおばさんというんだ。」と優しい声でお姉さんに話しかけました。

それからホレおばさんは、「私の家に泊まって、家の仕事をやってくれないかい。きちんとやってくれたら、きっといいことがあるよ。仕事っていうのは、私のベッドを整える時に、羽ふとんをよく振って、羽がいっぱい飛び散るようにするだけだよ。そうすると、人間の世界に雪が降るからね。」と言いました。


お姉さんはホレのおばさんに家に泊まることにしました。それから、言われたとおり、ホレおばさんのベッドを整える時は、羽ふとんをいつも力いっぱいふるいました。すると雪のように、いっぱいの羽が飛び散っていきました。おばあさんは意地悪なことは一つも言いませんでした。そしてお姉さんに美味しいものを食べさせてくれました。

 

 お姉さんはお母さんと暮らすよりも、ホレおばさんの家にいる方がずっと幸せでした。それなのに何日かすると、お姉さんは何故だかわからないけれど、元の家に帰りたいと思うようになりました。
ホレおばさんは、「今まで、真面目によく仕事をしてくれたね。それじゃあ、お前を元の世界に帰してあげよう。」と言って、お姉さんを大きな門の所へ連れて行きました。

門の扉が開き、お姉さんは扉の外に進み出ました。すると、天からキラキラと輝く金が雨のようにたくさん降ってきました。その金はお姉さんの体中にくっつきました。

ホレおばさんは、「これは、お前が働いたごほうびだよ」と言いました。そして、お姉さんになくなったつむを渡して、扉を閉めてしまいました。


気がつくとお姉さんは元の世界に戻っていました。井戸の上にはオンドリがとまっていたした。オンドリは、「コケコッコー、キラキラ金の娘のお帰りたよ!」と大きな声で鳴きました。

お姉さんが体中に金をつけて帰って来たので、お母さんと妹は喜んでお姉さんを家の中に迎え入れました。そして、お姉さんから今までの話を全部聞きました。

 

お母さんは、怠け者の妹にも、同じように金を貰って来させてやりたいと思いました。そこで妹も、井戸の側で糸紡ぎをすることになりました。でも妹は真面目に糸を紡がないで、イバラのトゲでわざと指を指して、つむに血をつけました。そしてつむを井戸に投げ込みました。それから自分も井戸の中に飛び込みました。

 

 気がつくと、妹もやっぱり広い野原にいました。妹が歩いていくと、今度もかまどの中のパンが、「出してくれ、出してくれ、早くしないと焦げてしまうよ!」と叫んでいました。ても妹は、「いやよ。そんなことをしたら私が汚れてしまうじゃない。」と言って、知らん顔をして通り過ぎました。

 

それからまた歩いていくと、リンゴの木が「ゆすってくれ、ゆすってくれ、リンゴが重くてたまらないよ!」と叫んでいました。でも妹は、「いやよ。そんなことをしたら、私の頭にリンゴが降ってきそうだもの。」と言って、また知らん顔をして通り過ぎました。


そして妹はホレのおばさんの家に着いて、そこに泊まって仕事をすることになりました。はじめの日、妹は我慢して一生懸命仕事をしました。ホレおばさんから金をたくさん貰いたいと思ったからです。でも2日目はだんだん怠け出して、3日目は朝になっても起きませんでした。妹はホレおばさんの羽ふとんを振るうこともしませんでした。

 

ホレのおばさんは妹に、「もう帰っていいよ。」と言って、大きな門の所へ連れて行きました。

門の扉が開き、妹は扉の外に進みでました。そして、「いよいよ、金の雨が降ってくるわ。」と思いました。

ところが、天から降ってきたのは、臭くてドロドロした、真っ黒なコールタールでした。そのコールタールは妹の体中にくっつきました。

ホレおばさんは、「これが、お前が働いたご褒美だよ。」と言って、扉を閉めてしまいました。


妹が元の世界に戻ると、井戸の上にとまっていたオンドリが、「コケコッコー、くさくて汚い娘のお帰りだよ!」と大きな声で鳴きました。
  真っ黒なコールタールは怠け者の妹にしっかりとくっついていて、生きている間中、どうやっても取ることはできませんでした。


おしまい

ブレーメンの音楽隊(グリム)

ブレーメンの音楽隊★

 

昔、ある所に1匹のロバがいました。そのロバは長い間、重たい荷物を背中に乗せて運ぶ仕事をしていました。

やがてロバは年をとって、力が弱くなり、思うように仕事ができなくなってしまいました。すると、このロバの飼い主は、「働けないロバには、エサをあげてももったいない。エサをやるのはやめよう。」と言い出したのです。

エサがもらえなくなれば、ロバは生きていくことはできません。ロバはこの家を出ることにしました。そしてブレーメンという町に向かって歩き出しました。ブレーメンの町にある音楽隊に入って、そこで新しく音楽の仕事をしようと思ったからです。

 

ロバがしばらく歩いて行くと、途中の道ばたにイヌが横になっていました。イヌはゼーゼー息を切らしています。
「イヌくん、いったいどうしたんだい?」とロバはたずねました。

するとイヌは、「僕、年を取って、狩りで獲物をつかまえる仕事ができなくなったんだ。そうしたらね、僕の飼い主は、僕を鉄砲で撃とうとしたんだよ。それで急いで逃げてきたところなんだ。」と答えました。

ロバはそれを聞いて、「それなら、ブレーメンの音楽隊にならないかい。僕がギターをひいて、君はタイコを叩くのはどうかな。」と言いました。

イヌは「それはいい考えだ。」と思って、一緒にブレーメンの町へ行くことにしました。

 

2匹が歩いて行くと、今度は道ばたでネコが座りこんでいました。ネコはしょんぼりとした顔をしています。
「ネコさん、いったいどうしたんだい?」とロバはたずねました。
するとネコは、「私、年を取って、ネズミを追いかける仕事ができなくなったの。そうしたらね、私の飼い主は、私を川で溺れさせようとしたのよ。それで急いで逃げてきたところなの。」と答えました。

ロバはそれを聞いて、「それなら、ブレーメンの音楽隊にならないかい。君はきっと夜の歌が得意だろう。」と言いました。

ネコは「それはいい考えだ。」と思って、一緒にブレーメンの町へ行くことにしました。

 

3匹が歩いて行くと、大きな家の前を通りかかりました。家の門の上にはオンドリがとまっていて、ありったけの大きな声で、コケコッコーと鳴き叫んでいました。
「オンドリくん、いったいどうしたんだい?」とロバがたずねました。
するとオンドリは、「みんなにいいお天気だって知らせているんだよ。僕の飼い主は明日、僕をお客さんに出すスープに入れるつもりなんだ。だから僕は、声の出せる今日のうちに、精一杯鳴いているんだよ。」と答えました。
ロバはそれを聞いて、「それなら、ブレーメンの音楽隊にならないかい。君は声がいいから、素晴らしい音楽ができるよ。」と言いました。

オンドリは「それはいい考えだ。」と思って、一緒にブレーメンの町へ行くことにしました。

 

4匹は、夕方大きな森へやってきました。ブレーメンの町はまだ遠いので、今夜はここで休むことにしました。ロバとイヌは大きな木の下に横になりました。ネコとオンドリは木の上にのぼりました。

みんなが眠ろうとした時、木のてっぺんにいたオンドリが、遠くの方に明かりが見えるのを見つけました。オンドリは、「向こうに家があるみたいだ!」とみんなを起こしました。みんなは、「じゃあ、すぐにそこへ行ってみようよ。」と言って、また歩き出しました。

 

4匹は、明かりのついている家の前までやってきました。実はこの家は、ドロボウたちの家でした。

ロバは窓から中を覗いて、「これはすごいよ。テーブルの上は美味しそうなごちそうでいっぱいだ。それをドロボウたちがご機嫌で、のんだり食べたりしているよ。」とみんなに教えました。

4匹は、何とかしてドロボウ達を追いはらって、ごちそうをいただけないかと考えました。そして、いい考えを思いつきました。

 

まず、ロバが窓に前足をかけて、ロバの背中にイヌが飛び乗りました。次に、イヌの上にネコがのぼりました。最後に、オンドリが飛び上がってネコの頭の上に乗りました。
それからみんなで合図に合わせて、「ヒヒーン!ワンワン!ニャーニャー!コケコッコー!」と、ものすごい大きな声で鳴き叫びました。それからいっせいに、窓ガラスをガシャーンと割って、部屋の中へ飛び込みました。

これにはドロボウたちももうびっくりして、「ばけものだ!」と叫ぶと、いちもくさんに森の中に逃げて行ってしまいました。

 

4匹は「よしよし、うまくいったぞ。」と言って、テーブルに残っていたごちそうをお腹いっぱいになるまで食べました。それからそれぞれ、寝心地のいい場所を探しました。ロバは庭のわらの上に、イヌはドアのうしろに、ネコは暖炉の灰のそばに、オンドリは天井の横木の上に決めました。そして、明かりを消すと、みんなすぐにぐっすりと眠ってしまいました。

 

真夜中になって、ドロボウたちはまた集まってきました。ドロボウのお頭は、「静かだな。もう、ばけものはどこかに行ってしまぅたかもしれないぞ。」と思いました。そこで、手下のドロボウの一人に、家の中の様子を見に行くように言いました。


手下のドロボウは、そっと家の中に入りました。家の中は真っ暗でシーンとしていました。

手下はロウソクに火をつけようと思って、暖炉に残った小さな火に、マッチを近づけました。でもそれは、火ではなくて、目を覚ましたネコの目だったのです。ネコは怒って、手下の顔に「フー!」と息を吹きかけると、バリッと思いつきひ爪で引っかきました。
手下はあわててドアから逃げ出そうとしました。ところがそこに寝ていたイヌが、手下の足にガブリとかみつきました。

手下はますますあわてて庭へ飛び出しました。すると今度はロバが、手下をポーンと蹴り飛ばしました。そしてオンドリも目を覚まして、「コケコッコー!」と鳴き叫びました。

 

手下のドロボウは、ヨロヨロになりながらお頭のところへ戻りました。そして、「お頭、あの家にはおそろしい魔女がいます。魔女はいきなりおれにの顔に息を吹きかけて、それから長い爪でひっかきました。逃げようとしたらドアの前に男がいて、おれの足をナイフで突き刺しました。庭には黒いばけものがいて、おれをこん棒でぶんなぐりました。おまけに屋根の上には裁判官がいて、『その悪者を連れて来い』と、どなっていました。おれはもう、怖くて怖くて、必死になって逃げてきました。」と言いました。

その話を聞いたお頭や他のドロボウたちは怖がって、もう二度とこの家には帰ってきませんでした。

 

ロバとイヌとネコとオンドリは、すっかりこの家が気にいったので、ブレーメンの町へは行かずに、ずっとここで楽しくくらしました。

 

おしまい