ホレおばさん(グリム)

ホレおばさん★


昔、ある所にお母さんと二人の娘がくらしていました。二人の娘のうち、お姉さんは働き者の娘でしたが、妹は怠け者の娘でした。でも、お母さんはいつも妹の方ばかり可愛がっていました。それは妹はお母さんの本当の娘だったけれど、お姉さんはは亡くなったお父さんの前の奥さんが産んだ娘 だったからです。お母さんはお姉さんにはいつも冷たくて、おまけに家の仕事を全部やらせていました。

 

 お姉さんは毎日、井戸の側でたくさんの糸紡ぎの仕事をするように、お母さんから言いつけられていました。糸紡ぎの仕事とは、ふわふわしたわた(麻・羊毛など)から"つむ"という道具を使って、細長い糸を作っていく仕事です。お姉さんは指から血が出るほど、一生懸命糸を紡いでいました。

 

ある時、大事なつむに血がついてしまったので、お姉さんは急いでつむを井戸の水で洗おうとしました。ところがその時、うっかり手が滑って、つむを井戸の水の中に落としてしまいました。つむは水の底に沈んで、見えなくなってしまいました。

お姉さんは泣きながら家に帰って、お母さんに訳を話しました。お母さんはとても怒って、「お前が落としたんだから、自分でひろつておいで!」と言いました。

家から追い出されたお姉さんは、仕方なくか井戸に戻りました。でも、どうしたらいいのか分かりません。そこでお姉さんは思い切って、井戸の水の中へ飛びこみました。

 

 気がつくとお姉さんは、広い野原にいました。そこはお日さまに照らされた明るいところでした。そしてまわりには、色とりどりのきれいな花がたくさん咲いていました。

 

お姉さんはつむを探して歩き出しました。すると途中で、パンを焼くかまどがありました。かまどの中にはたくさんのパンが入っていました。そしてパンたちは、「出してくれ、出してくれ、早くしないと焦げてしまうよ!」と叫んでいました。お姉さんは可哀想に思って、焼きあがったパンを全部外に出してあげました。

 

それからまた歩いていくと、今度は赤いリンゴがたくさん実っている木がありました。そしてリンゴの木は、「ゆすってくれ、ゆすってくれ、リンゴが重くてたまらないよ!」と叫んでいました。お姉さんは可哀想に思って、リンゴの木をゆすっててリンゴの実を全部落としてやりました。


どんどん歩いていくと、小さな家がありました。家の中からは白髪のおばさんがのぞいていました。おばあさんは大きな歯をしていたので、お姉さんは怖くなって逃げ出そうとしました。ところが、おばあさんは、「怖がらなくていいよ。私はホレおばさんというんだ。」と優しい声でお姉さんに話しかけました。

それからホレおばさんは、「私の家に泊まって、家の仕事をやってくれないかい。きちんとやってくれたら、きっといいことがあるよ。仕事っていうのは、私のベッドを整える時に、羽ふとんをよく振って、羽がいっぱい飛び散るようにするだけだよ。そうすると、人間の世界に雪が降るからね。」と言いました。


お姉さんはホレのおばさんに家に泊まることにしました。それから、言われたとおり、ホレおばさんのベッドを整える時は、羽ふとんをいつも力いっぱいふるいました。すると雪のように、いっぱいの羽が飛び散っていきました。おばあさんは意地悪なことは一つも言いませんでした。そしてお姉さんに美味しいものを食べさせてくれました。

 

 お姉さんはお母さんと暮らすよりも、ホレおばさんの家にいる方がずっと幸せでした。それなのに何日かすると、お姉さんは何故だかわからないけれど、元の家に帰りたいと思うようになりました。
ホレおばさんは、「今まで、真面目によく仕事をしてくれたね。それじゃあ、お前を元の世界に帰してあげよう。」と言って、お姉さんを大きな門の所へ連れて行きました。

門の扉が開き、お姉さんは扉の外に進み出ました。すると、天からキラキラと輝く金が雨のようにたくさん降ってきました。その金はお姉さんの体中にくっつきました。

ホレおばさんは、「これは、お前が働いたごほうびだよ」と言いました。そして、お姉さんになくなったつむを渡して、扉を閉めてしまいました。


気がつくとお姉さんは元の世界に戻っていました。井戸の上にはオンドリがとまっていたした。オンドリは、「コケコッコー、キラキラ金の娘のお帰りたよ!」と大きな声で鳴きました。

お姉さんが体中に金をつけて帰って来たので、お母さんと妹は喜んでお姉さんを家の中に迎え入れました。そして、お姉さんから今までの話を全部聞きました。

 

お母さんは、怠け者の妹にも、同じように金を貰って来させてやりたいと思いました。そこで妹も、井戸の側で糸紡ぎをすることになりました。でも妹は真面目に糸を紡がないで、イバラのトゲでわざと指を指して、つむに血をつけました。そしてつむを井戸に投げ込みました。それから自分も井戸の中に飛び込みました。

 

 気がつくと、妹もやっぱり広い野原にいました。妹が歩いていくと、今度もかまどの中のパンが、「出してくれ、出してくれ、早くしないと焦げてしまうよ!」と叫んでいました。ても妹は、「いやよ。そんなことをしたら私が汚れてしまうじゃない。」と言って、知らん顔をして通り過ぎました。

 

それからまた歩いていくと、リンゴの木が「ゆすってくれ、ゆすってくれ、リンゴが重くてたまらないよ!」と叫んでいました。でも妹は、「いやよ。そんなことをしたら、私の頭にリンゴが降ってきそうだもの。」と言って、また知らん顔をして通り過ぎました。


そして妹はホレのおばさんの家に着いて、そこに泊まって仕事をすることになりました。はじめの日、妹は我慢して一生懸命仕事をしました。ホレおばさんから金をたくさん貰いたいと思ったからです。でも2日目はだんだん怠け出して、3日目は朝になっても起きませんでした。妹はホレおばさんの羽ふとんを振るうこともしませんでした。

 

ホレのおばさんは妹に、「もう帰っていいよ。」と言って、大きな門の所へ連れて行きました。

門の扉が開き、妹は扉の外に進みでました。そして、「いよいよ、金の雨が降ってくるわ。」と思いました。

ところが、天から降ってきたのは、臭くてドロドロした、真っ黒なコールタールでした。そのコールタールは妹の体中にくっつきました。

ホレおばさんは、「これが、お前が働いたご褒美だよ。」と言って、扉を閉めてしまいました。


妹が元の世界に戻ると、井戸の上にとまっていたオンドリが、「コケコッコー、くさくて汚い娘のお帰りだよ!」と大きな声で鳴きました。
  真っ黒なコールタールは怠け者の妹にしっかりとくっついていて、生きている間中、どうやっても取ることはできませんでした。


おしまい